更新履歴
8.7 シンポジウムの情報につき一部更新しました。
6.1 シンポジウム、及びプレシンポジウムについて公開しました。
公開シンポジウム
概要
日時 2022年10月1日(土)13:00 –16:50(12:00受付開始)
場所 熊本大学黒髪キャンパス 文法棟A1教室
表題 「文化財と地域資源 -活用をめぐる農政学との対話ー」
登壇者
【報告】
池田朋生(熊本県文化企画・世界遺産推進課 阿蘇分室 会員)
「阿蘇の文化的景観 ―文化的景観の保存調査の成果から―」
川村清志(国立歴史民俗博物館 会員)
「 民俗文化からアートへ ―現代における保存と活用のアルケミー」
福与徳文(茨城大学農学部 非会員)
「報告タイトル: 地域づくりと農政 —日本型直接支払による地域資源の保全・活用—」
【コメント】
俵木悟(成城大学文芸学部 会員)
八木洋憲(東京大学大学院農学生命科学研究科 非会員)
【コーディネート】
山下裕作(熊本大学文学部 会員)
主旨
平成31年から令和3年に至るまでの文化財保護法の改正は、文化財の保護に加えて「活用」を強く求める内容となっている。改正前においても「文化財」は、主として学校教育や生涯学習等での活用を求められてきたが、今次の改正における「活用」とは、その発議時に「インバウンド」の資源としての活用が念頭に置かれ、まちおこし等での直接的な経済効果を生み出す「活用」が求められているようにみえる。また、一方で未指定の文化資源の登録による文化財化、その登録における地方自治体の権限の強化などが図られ、文化財のすそ野を広げようとする改正もなされている。そして、現在は各都道府県による「文化財保存活用大綱」(マスタープランに相当?)が作成され、その後市町村による「文化財保存活用計画」(アクションプランに相当か?) が作られることになっている。
こうした現状にあって、学問として積極的に文化財行政の現場に参与しつつあるのが、都市計画学と建築学等の工学分野である。重要文化的景観選定においてその傾向は顕著である。そうした領域において、歴史的な建造物や文化的な景観は、何よりも高い価値を持つ文化財と位置づけられる。なによりだが、現代の生活変化の中における文化財の位置づけ、担い手となる現代の住民にとっての文化財の価値という、従前から文化財行政を担ってきた学問領域が持つ懊悩に関しては、無頓着なようにも見える。
こうした比較的新しい文化財の範疇や、また日本遺産等の導入により、文化財行政における民俗学の立ち位置は徐々に小さなものになりつつあるのではないか。そして現場の学芸員等の担当者は、少ない予算と、減少しつつある担い手という現実の中で、保存という命題に悩み、活用という課題に戸惑っている。なんとか真摯な文化財行政としての突破口を、学会として見出さなければならないのではなかろうか。
そうしたなかでも、一部ユニークな「活用」への取り組みも散見される。文化財レスキューを通じたコミュニティーの再生や、復興意欲の醸成。現代日本における最新・最大級の文化的事業である地域芸術活動への参与などである。どれも希望がもてる有意義な取り組みであるが、未だまとまった議論や評価の俎上には乗られてはいない。
また、文化を資源として評価し、以前から「活用」し続けている領域は他にもある。農業経済学や農村計画学(かつての農政学) がそれである。昨年度の優秀農林水産業者の「むらづくり部門」における天皇杯(大賞) の受賞地区は熊本県上益城郡山都町白糸第一振興会であった。国の重要有形文化財「通潤橋」を擁する地区である。具体的には2008 年の重要文化的景観選定を期とした様々な農業・農村振興活動が高く評価されたのであるが、その選定そのものが1999 年に始まる熊本県による地域用水整備事業(歴史環境保全型) という基盤整備事業によって実現したものと言ってよい。農業土木技術者たちの学問と技術によるところが大きいのである。また、その地区の農業者にとって、最も有効な施策だったのは「中山間地域等直接支払制度」であるという。「多面的機能直接支払制度」ともあわせ、これら日本型直払い制度という施策は、農業経済学や農村計画学がGATT ウルグアイラウンドより、農林水産行政の場で議論し続け、とりまとめ、国民の理解を得るために努力を重ねた「農業・農村の多面的機能」や「地域資源」の概念があったからこそ実現したものである。
現在、「むらづくり」等の農業農村施策において、「田の神」信仰や、「講」や「組」といった、民俗学が発見し対象としてきた事々が、高く評価され、機能や活用の文脈に乗せられている。伝承という継続の効果に期待が寄せられている。農政学も柳田国男の時代から大きく変化しているのである。これら民間伝承を学知の俎上にあげたのは、あくまで民俗学である。その業績は他に代えがたい。ただ、それらの機能を見つめ、現代社会に応用し、実際に「活用」の俎上にあげているのは、この新しい農政学なのである。
本シンポジウムは、上記に関わる三者をパネラーとしてお招きする。
一人は、世界文化遺産の推進と重要文化的景観、それらによる地域社会の振興という課題を与えられ、真摯に努力し、成果を上げている現場の学芸員。いま一人は、大規模な地域芸術祭において、民俗学の知見を活かし、地域住民やボランティアの都市住民たちとともに、協業しながら、民具を用いた大きなアート作品の創作現場に関与した民俗学徒。そして、「多面的機能」や「地域資源」議論の担い手であり、農村現場でも住民たちとともに地域のより良い振興のために汗を流す、新しい農政学徒である。
これら三者の研究者たちと、シンポジウム会場にお集まりの皆さんで、穏やかな、お互いへの敬意に満ちた議論を進めたい。コメンテーターにも優秀な研究者をお招きした。今回のシンポジウムは、文化財の活用について、そして民俗学と行政の関係の見通しについて、先々のためになる大らかな議論の出発点になればと思う。
諸注意事項
- 本シンポジウムは一般公開形式で計画しておりますが、今後の新型コロナウィルス感染拡大によっては事前登録制などに切り替える場合があります。その場合は第3 サーキュラーにて告知いたします。
- 本シンポジウムは遠方の会員の便宜のため、現在YouTube を用いた同時配信を企画しております。この実施の詳細は第3 サーキュラーにて告知いたします。
- シンポジウム終了後、会場でそのまま奨励賞の授賞式を実施いたします。
プレシンポジウム(7.24終了)
概要
日時 2022年7月24日(日)
場所 国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)
表題 「半島のアート、民俗のはて —奥能登国際芸術祭と民俗文化研究の節合の試み—」
※現在調整中。詳細に関しては、後日お知らせいたします。
主旨
各地の民俗文化が様々な形で終焉を迎えつつある。人が消え、家が消え、ムラが消えていく。コミュニティーが消滅すれば、そこで培われていた多くの民俗文化も終わりを迎える。本シンポジウムでは、終わりゆく地域社会の遺産としての生活用具や民具というモノたちを見つめなおし、新たな息吹を注ぎこむ試みとして、芸術祭という場を捉えなおす。以下では、2021 年に開催された「奥能登国際芸術祭2020+」における「大蔵ざらえプロジェクト」を民俗文化とアートの新たな節合事例として紹介していく。現場への研究者の参与のあり方を問いなおし、アーティストと研究者との対話と協働の可能性を模索したいと考える。
奥能登国際芸術祭は、2017 年より、石川県の能登半島の突端に位置する珠洲市を舞台として3年に一度の開催を目指して計画された催しである。半島という地理的特性から、海とのつながり、海を介した他所とのつながりの深い地である。近年では、地域の生業形態や食文化が「能登の里山里海」(2011 年) として世界農業遺産に認定された。また、能登半島に特徴的なキリコを中心とした祭礼が、「灯り舞う半島 能登~熱狂のキリコ祭り~」(2015) として日本遺産にも認定された。
このような地域文化の再編成の只中で始まった芸術祭は、「アーティストの力を借りて珠洲に眠るポテンシャルを掘り起こし、地域の活性化、地域の魅力を高め、日本の最涯から最先端の文化を創造する試み」と位置づけられる。2回目となる2020 年の芸術祭はコロナ禍のために一年間延期され、2021 年10 月から実施されることになった。
この時の出展作品の目玉が、「大蔵ざらえプロジェクト」によって収集された地域の民具や生活用具などの「地域のお宝」をリソースとしたアート作品群である。珠洲市の実行委員会が主体となり、サポーターたちとの協働作業によって、珠洲各地から寄贈の申し出のあった家々を訪れ、多様で大量のモノたちを収集した。これらのモノたちの多くは、市内の大谷地区にある旧西部小学校の体育館を全面改修したスズ・シアター・ミュージアムにおいて公開されることになった。ミュージアム内には、民具の紹介コーナーを含めた8つのエリアにアーティストの作品や民具の展示が行われている。
シンポジウムではまず、スズ・シアター・ミュージアムのダイレクターを務めた南条嘉毅から展示会場全体のコンセプトと作品を構成するまでの過程について発表していただく。次に地域を代表するキリコ祭りをテーマとした作品、「待ち合わせの森」を制作した大川友希からは、地域から集められた古布によって構成された祭りについての記憶の所在について解説してもらう。また川村からは、展示会場の最初に設けた「民具」の展示の解説とその意図について紹介する。さらに川邊咲子からは、大蔵ざらえの収集過程での資料の整理の方針とサポーターとの連携過程の成果と課題を発表する。
以上、アーティストと研究者の視点の交錯と対話によって生み出されたスズ・シアター・ミュージアムの試みを通して、民俗文化の活用・保存をめぐる新たな領域展開を目指したいと考える。